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【被災地の教育現場 vol.21】 2016年1月、成人式にて

2016.2.09


懐かしい人に久しぶりに会ったとき、その間の時間がすっ飛んだみたいになる。
華やかな晴れ着を着ているけど、会場は華夕美(女川のホテル)だけど、並んで座る様子を見ながら、制服姿の彼らを見ている気にもなった。

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あの日総練習した卒業式のようだ。

私は職員室にいた。
5時間目が終わり、下校する3年生を見送りながら、明日はきっと素晴らしい卒業式になるだろうと思っていた。
それから1、2年生が卒業式の会場準備に取りかかって約30分後だった。
柱や天井が歪んで見えた。火花が散って停電になり、本が崩れてきた。

92人の3年生のうち、その日の夜までに無事を確認した生徒は半数ほど。
最後まで2人が帰ってこなかった。

卒業式は、一週間後に着の身着のまま図書室で行われた。出席できず、後日卒業証書を受け取りに来る生徒も多くいた。その都度、できるだけ校長室で卒業式っぽい演出をした。それぐらいしかしてやれなかった。

この学年は3年間、国語の授業を担当した。
明るく人なつっこくて、珍解答が続出し、授業はいつも大喜利のようだった。
行事などを振り返ると笑顔の場面ばかりが浮かぶ。
最後の一日を除けば。

本来なら胸弾むはずの高校生活のスタートだが、あの年は多くの生徒が、家や身近な誰かを失った状態で迎えることになった。遠隔地に引っ越すことになり、せっかく合格した高校に入学できなかった生徒もいて、「おめでとう」と言いながら、祈るような気持ちで送り出した。そんな卒業式だった。

当たり前のことだが、15歳の中学生は5年経つと20歳になる。
あれからもうすぐ5年か、いろんなことがあったんだろうなぁ、としんみりしつつ、生徒たちの凛々しく成長した姿に胸が熱くなった(最近は「胸アツ」と言うらしい)。

厳かな式典の後の第2部では雰囲気も和み、思い出の写真がスライドショーで映し出された。2年生のときの登山をした写真。
励まし合って登り、たどり着いた山頂からの眺めに歓声があがったっけ。

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みんな覚えているかい。
険しいほど、高いほど、山の上からの眺めは素晴らしい。
今日の成人式は何合目か分からないけれど、なかなかいい眺めだ。

成人おめでとう。山頂はまだだぜ。

≪つづく≫

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このブログ「被災地の教育現場」シリーズは、
元 女川中学校教員である佐藤敏郎先生が、教育現場を見てきた先生として、
コラボ・スクール女川向学館のメンバーとして、被災地の教育現場の現状を
つづる連載です。
学校現場の視点、保護者の視点、地域の視点でコラボスクールの価値と
可能性についてつぶやきます。

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