“支援”ではなく、パートナーシップを(女川向学館校長 鶴賀より)
2016年1月12日現在の宮城県女川町・中心市街地全景(女川町観光協会HPより転載)
宮城県女川町は現在、公共交通機関が整備され、女川駅前の中心エリアには昨年12月に待望の商店街が拓き、復興の機運が高まっています。
しかし、まだ4割の子どもたちが仮設住宅暮らしです。教育環境が整うまでには、あと数年の時間を要すとも言われています。そういった状況を受け、NPOカタリバは、2019年3月までの事業継続を発表しています。
震災の経験を悲しみから強さへ。
辛く厳しい経験は、子どもたちの心に強いストレスを与えましたが、それを乗り越えることで、自分の未来に対して肯定的な姿勢を持ち始めています。
「町外から女川町に来て、町の様子を見たり、写真に収める人々の姿に疑問や苛立ちを覚えたりすることがありました」
これは、震災直後の中学生が打ち明けてくれたことです。
「同時に、町外からやってきた大学生や、様々な職を経験してきた方とお話する時間は、自分の将来を考える場ともなっていました。次第に心の整理がつき、町を見に来る方や町の風景を写真に収める方をみても、嫌悪感を覚えることもなくなりました」
この生徒は大学に進学し、乳幼児の発達について学びながら、保育所や幼稚園の場に限らない保育の可能性を探っています。
一方、幼い子どもたちは、お母さんに思いっきり甘えて愛着形成をする時期(つまりはストレスに対処できるほどの耐性がない時期)に、避難所・仮設住宅暮らしを経験しているためか、教室では集中力が低く、じっと座っていられない子が今でも見受けられます。
家庭でやり切れないことを補完すべく、学校やコラボ・スクールで、愛着関係を結び直しています。ですが、全ての子どもたちの心をリカバリーするには、私たちの力不足も含め、5年という活動期間では足りていません。
女川町の話ではありませんが、先日、被災した学校校舎の保存・解体を議論する公聴会を聞きに行きました。そこで、参加者の一人が話されていたことです。
「子どもたちが楽しく学び遊んだ場所として残したい、見るのがつらいから壊したい…、いずれの意見も間違いではないと思います。(中略)間違いではない二つの答えがあって、でも答えは一つという事案なのです」
一言では表せない問題の構造、心の様相があります。カタリバが向き合っている教育課題にも、似た構造があります。
子どもたちは確実に成長しています。いつかコミュニティのリーダーを担っていくような、そんな生徒も育っています。彼らがプライドを持って進路を歩めるようになったのも、みなさんのご支援の賜物であると、心から感謝しております。
一方で、まだまだ支援が必要な子どもたちがいます。ですが、本当は“支援”という言葉を使いたくありません。私たちも5年間活動し、子どもたちは共に汗と涙を流してきた仲間です。“支援”という言葉を使う度に、彼らとの間に微妙な溝を感じてきました。
今日で震災から5年が経ちますが、復興は道半ばです。
子どもたちの教育環境が整い切った状態とは、どんな状態なのか。子どもたち全員が仮設住宅から退去すれば、それで終わりなのか。考えていかなければならないことはまだまだあります。
だからこそ、対話の中で、もっと皆様に私たちの考えるゴールイメージをお伝えしていきたいと思っています。
そのためには、これから皆様とは“支援する・される”の関係ではなく、共に社会課題の解決を目指すパートナーでありたい、と願っております。
互いの立場を尊重しつつも、忌憚のない意見を交わし合う。そんなパートナーシップです。
引き続きどうぞよろしくお願い致します。
2016年3月11日
女川向学館校長 鶴賀康久