「あの日のことを書いてごらん」~敏郎先生の震災と復興の授業~
東日本大震災から9年と6か月が経ちました。
先日、元女川第一中学校教諭の佐藤敏郎先生による、「いのち・ふるさと・みらいの授業」を行いました。
この授業は、震災当時4歳だった中学2年生を対象に、震災と復興について考える授業です。
今回はこの授業についてご紹介します。
いま、向学館に通う子どもたちの半数以上は震災の記憶があまりありません。
震災や復興を自分の経験として語ることができる子どもたちは年々減ってきています。
「この町に住む一人として、震災と復興のことを、そしてこの女川町のことをもっと知ってほしい」という思いはじまったのが「いのち・ふるさと・みらいの授業」です。
講師は元国語教師の佐藤敏郎先生です。
▲子どもたちに震災当時の様子を語る敏郎先生▲
第1回目は「震災前の女川と震災」をテーマに授業をしました。
敏郎先生がみせてくれた震災前の女川町。
「ここ保育園の遠足で行かなかった?」
ある女の子の発言を皮切りに震災前の女川を子どもたちが自発的に語り始めました。
当時4歳ですが覚えていることもたくさんあるようでした。
▲「よく行っていた」と子どもが語った施設「マリンパル女川」▲
敏郎先生の話は少しずつ震災に近づいていきます。
「3月11日は卒業式の準備をしていました」
3月11日、という言葉が出ると子どもたちは真剣な面持ちになります。
▲風景が一遍した町▲
「震災で覚えていることがあれば書いてごらん」と敏郎先生が紙を渡しました。
紙に単語を並べるうちに少しずつ震災のことを思い出してきたようです。
「あの自販機のジュースを飲んで避難した」
「家の前に魚が打ち上げられていてびっくりした」
▲当時を思い出しながら書き出しています▲
子どもたちが話しきると敏郎先生は1枚のスライドを出しました。
ー災害は日常を襲う 大災害は日常を奪うー
教え子と一緒に中学校から避難した話。
現実を受け止めるのが辛くて、次の日の朝を迎えるのが怖かった話。
敏郎先生の話を聴くうちに、だんだんと真剣な表情になっていく子どもたち。
▲真剣な表情で敏郎先生の話を聞く子どもたち▲
「震災で大事なものをたくさん失いました。でもそれって震災があったから大事というわけではないんだよね。本当はいつでも大事なんだけどそれを忘れてしまっているんだと思う」
いつもは当たり前にあり、その大事さに気付けないもの。
震災を考えることは大事なもの、大事なことと改めて向き合うきっかけとなります。
敏郎先生が子どもたちに向けたメッセージはしっかりと子どもたちに届いていたようです。
震災当時4歳だった子どもたちもこの9年で大きく成長しました。
敏郎先生は子どもたちに
「あの日のこと、あの日までのこと、あの日からのことをこの授業で考えよう」
と語りました。
自分は今何を大切に思って生きていきたいのか、あの日から大きく成長した子どもたちと、この授業を通して考えていきたいと思います。