町長、聞いてください!
冷たい風が身にしみるようになってきた11月のとある日のこと。
臨学舎には朝から緊張感が漂っていました。
いつも自習室として使われている廊下が会場用にセッティングされ、
玄関には来賓用のスリッパがずらり。
それもそのはず。
この日は、大槌町長が初めて臨学舎にやってくる日だったです。
* * *
11月2日。
「マイプロジェクトプランニング発表会」が行なわれました。
先日の記事で紹介した、佐々木瞳さんや釜石望鈴さんも取り組んでいた
「マイプロジェクト」に取り組む大槌の現役高校生たちが、
自分たちのプロジェクトを町に向けて発表するという試みです。
この日、臨学舎に招いたのは、町長だけではありません。
町議会議長、議員の皆様、高校の校長先生や諸先生方、教育長をはじめとした教育委員、教育委員会事務局の方々、町役場の総合政策の方々など。
これだけ多くの方が一堂に会する機会は、もちろん初めてです。
豪華な顔ぶれに職員はすっかり恐縮ぎみでしたが、出番を待つ高校生たちの顔は真剣そのもの。
なんだか頼もしく思えてきます。
お客様も揃い、いよいよ発表会のスタート。
代表挨拶も言葉少なに、高校生たちの出番がやってきました。
「大槌を出て、初めて大槌の良さがわかったんです」
手作りのボードを片手にそう語るのは、
町内唯一の高校である大槌高校に通う、古川海暉(ひかる)さんです。
町民と触れ合える小学生向けのイベント「一日修学旅行」を発表しました。
トップバッターながらも堂々とした発表に、会場が一気に引き込まれます。
自信に満ち溢れた表情を見せる海暉さんですが、もとは人見知りで周りの顔色を伺うような中学生でした。
しかし、「マイプロジェクト」の活動を続ける中で、自分にしかない感覚に気づいたといいます。
それは、海暉さんがもともと仙台に住んでおり、夏休みなどの長期休みの度に仙台に行っていた、という経験。都会と田舎、彼は知らず知らずのうちにその両方を比べていたのです。
だからこそ「大槌の良さがわかる」。そんな気づきが、このプロジェクトのスタートでした。
プロジェクトの詳細について、町長からも質問が飛び出します。
質問に答える海暉さんの表情には、笑顔も垣間見えました。
* * *
同じく大槌高校2年生の4人組が発表するのは「Please つたつた」。
プレゼンターは黒澤亜美さんです。
亜美さんはもともと、引っ込み思案でおとなしいタイプ。
中学生の頃は、わからないことがあっても先生に話しかけることができませんでした。
そんな亜美さんも、活動を通してすっかり頼もしい存在になりました。
たった一人で町内のショッピングセンターへ行き、責任者にアポを取ってイベントの開催を打診したこともあります。
亜美さんたちは、震災の経験から「小さなことでも人に伝える」ことで「不安や孤独をなくすことができる」と考え、
もの作りを通じて人とのつながりの大切さを訴えるイベントを開催しています。
活動を通じて「自分にもできることがあるのかもしれない」という思いは強くなった、と亜美さん。
今では周りを巻き込む存在となり、6人での活動を引っ張るリーダーです。
* * *
最後に登場したのは釜石高校1年生の村上夕芽(ゆめ)さん。
高齢者が多くいる大槌にとっては喫緊の課題である「介護」の問題を取り上げました。
発端は、大好きなおばあちゃんです。
介護の負担を減らすことができれば、介護が必要な人も介護をする人もより幸せになれる、というのが夕芽さんの考え。
孫としての視点から「将来、お年寄りが安心して暮らせるようなまちにしたい」と呼びかけました。
夕芽さんのプロジェクトが動き出すのはこれから。
勉強に部活に忙しい合間を縫って、「マイプロジェクト」に取り組もうと奮闘中です。
* * *
発表が終わり、町長からコメントをいただきました。
「町の課題をジブンゴトすることは非常に難しいかもしれない。けれど、それが出来る人が一人でも増えればこの町はきっといい町になる」。
そんな言葉を聞いて、発表会を終えた高校生たちも安堵の表情。
多くの方に「よかったよ」「がんばったな」と声をかけられ、嬉しそうにしていました。
* * *
普段の彼ら・彼女たちの様子を見ていて思うのは、「等身大の高校生」だということです。
特別学力が高いわけでもなく、リーダーシップが傑出しているわけでもなく、プレゼンがうまいわけでもありません。
そんな子どもたちが、マイプロジェクトの活動を通して町のことを自分ごとと捉え、日々成長を続けています。
高校生は子どもからだんだんと大人になっていく時期。ずっと誰かを頼りっぱなしだった
ごくごく普通の高校生がいつしか町の人たちから頼られる存在に。
そんな日もそう遠くはないのかもしれません。
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