史上最多!小学生が毎日100人やってきた10日間~被災地・大槌の夏休み
9月、大槌町は短い夏を終えてあっという間に秋が近づいています。
今回は、夏休み期間も毎日がんばった大槌の子どもたちの、学びの様子をお届けします。
■史上最多!小学生が毎日100人やってきた10日間
午前中は「夏休み学びの場」の時間です。
「学びの場」は町の教育委員会と連携しながら長期休暇ごとに実施しており、今年で4年目の取り組みになりました。
小学生が10日間、宿題や2学期の予習、漢字や算数の学習に取り組みます。
毎回申込人数が増えており、実施初年度は30名程度だった人数が、今回はなんと104名の申込が来るほどの人気講座になりました。
大槌町では約2割の子どもたちが未だ仮設住宅で暮らしています。
「落ち着いて勉強できる環境がない」「居場所がない」という課題が引き続き残る中で、「学びの場」のように思いっきり学習に取り組める場を活用してくれる家庭が増えているのは嬉しい限りです。
一方で、「新しく家が建つんだ!」という言葉を子どもたちから聞くことも増えました。狭い仮設住宅とは違い、やっと1人部屋ができるなど、思春期の子どもたちにとって落ち着いて過ごせるような環境が整いつつあります。
しかし、「学びの場」の参加人数は減るどころか増え続けています。
この数年間の取り組みによって「夏休みは学びの場へ」という文化が、子どもにも保護者にも根付いてきたのかもしれません。
「先生!夏休み、学びの場に行くからね!」
笑顔でそう話してくれる子どもたちが、この夏もたくさんいました。
「学びの場」の取り組みの一つに、「おおつち検定」があります。
これは漢字検定、算数検定と連携した取り組みです。
子どもたちは練習プリントと検定テストに取り組み、目標級の取得を目指します。
例えば5日目で受からなかった子も、最終日に再度テストを受け直して合格!なんてことも珍しくありません。
ニガテやつまずきを知り、何度でもチャレンジすることで達成感を得ることができます。
10日間、この時間を通して子どもたちにはいろんな表情が生まれました。
時間内にプリントが終わらなくて悔し泣きした子どもがいました。
毎日ニガテな算数に粘り強く取り組み続けた子どももいました。
また、かなり高い級の検定を受けるか悩んだ末に挑戦、見事合格して大喜びした子どももいました。
最終日まで合格を目指して一生懸命に取り組み、合格者には賞状が渡されます。
賞状を持つ子どもたちにはたくさんの笑顔がありました。
被災直後の仮設住宅への入居率が高く「安心・安全な学習環境がない」という課題は、町の再建とともに少しずつですが解消されていきます。
しかし被災地の課題が無くなったとしても、
「1学期分からなかったところが分かるようになった!」
「計画どおりに宿題が終わったよ!」
「友達と一緒に勉強できて楽しかった!」
のような、臨学舎で生まれる学習への前向きな気持ちが、子どもたちがまた通ってくる理由をつくっていくのでしょう。
■「未来の課題と向き合う」力をつけるために
午後からは中学生の夏期講習。
こちらは町の中学生の3割弱にあたる約70人が通ってきます。
普段の授業は数学と英語が中心ですが、夏期講習では理科や社会、国語や苦手克服の講座などを自分たちで選択し、10日間を過ごしました。
その中で私たちがこの夏のテーマとして取り組んだことの一つが「課題を乗り越える力をつける」ことでした。
復興の過程では人口減少や産業の再生など、町づくりの課題がまだまだ多く残っています。そして近い未来、彼らが町づくりの担い手となる日が来るかもしれません。
そんな時、難しい町の課題にも向き合える人になってほしい。
だからこそ学習面でも、難しい問題やニガテな問題にぶつかって乗りこえた経験を今から積み重ねることが重要だと考えました。
しかし実際には、分からない問題にぶつかった時にそのままにしてしまう子どもも少なくありません。また分かるようになりたいけど、どうすればいいかで悩んでしまう生徒もいます。
時には「じゃあ具体的にはどこが分からなかった?」とこちらから問いかけ、
時には正答と自分の回答を比較させて自ら気づくように促し、
時には自分の学習のクセを振り返ることで、課題を乗りこえるサポートを行いました。
ある生徒は間違った問題を丁寧に見直すことで、
「数学だと、途中式を雑に書いているから+と−をまちがえて計算してしまうことが多い。次は見直しを丁寧にやらなくちゃ」
と自分で気づくことができました。
こういった小さな積み重ねが、大きな成功体験につながっていくはずです。
■成長に向き合う子どもたちの姿が、町の未来を照らす
最後に、ある生徒の事例を紹介させてください。
「勉強がとても苦手で、学校の授業に全然ついていけない
とにかくわからないし、教科書見てると眠くなっちゃう」
夏期講習から臨学舎に通い始めた中学2年生のBさんは、夏休みの始めにそう教えてくれました。
確かに中1の内容も危なっかしいどころか、九九を訊ねても回答に時間がかかるくらいの学力。学校の授業は、ほとんど理解できてないことが容易に想像できました。
しかし通いはじめると、Bさんには素晴らしいところがたくさんあることがすぐに分かりました。
まず、毎日ちゃんと講座にやってくる。
講座中はとにかく一生懸命やる。
分からないところは恥ずかしがらずに質問する。
彼女の「分かるようになりたい」という意欲は、クラスの中でもピカイチだったのです。
彼女は夏期講習期間を一度も休むことなく、最後まで出席し続けました。
積極的に質問をしながら、ゆっくりではありますが、自分のできる範囲を増やせたようです。
夏期講習の終盤、ふと彼女に聞いてみました。
「勉強は、やっぱりニガテ?」
「うん」
「そっか」
「でもね」
彼女の表情が、照れくさそうな笑顔に変わります。
「先生、わたし、最近数学はちょっと好きかもしれないんだ」
それは10日間で起きた彼女の小さな変化でした。
「できない」ことが「できる」ようになっていく。
その過程こそが子どもたちの自己肯定感を育み、学びの意欲を高めていきます。
そして私たちの仕事は、その過程をデザインすることです。
その中に生まれる小さな成功体験の積み重ねが、被災地の将来を担う彼らに持っていてほしい力につながります。
苦手なこと、できないことと向き合うことは、大人でも難しいこと。
つらいことも多いし、できない自分と向き合って不安を覚えることもあります。
少しずつ復興が進むこの町では、新たな町づくりの過程で難しい課題も抱えています。
だけど今、大槌町にはこれでもかと自分の成長に向き合っている大勢の子どもたちがいます。
そんな子どもたちの姿は、この町の未来を照らす兆しではないでしょうか。
復興が未だ終わらないこの町の中で、日々奮闘する子どもたちにぜひ会いに来てください。