【被災地・大槌町より】中高生が英語で町をご案内!~ある中学生の成長物語
成績優秀、スポーツ万能、優等生。
そんな三拍子が揃った、ある女の子のお話です。
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彼女はコラボ・スクールに通い始めて2年目。
中学生ながら、高校生に交じってSkypeでの英会話にも挑戦するなど、意欲的に頑張っているように見えます。
しかし、彼女には一つ苦手なことがありました。それは、できないことに向き合うこと。
普段の授業の様子を見ていても、勉強が得意な彼女には、できない問題がほとんどありません。でも、ふと解けない問題にぶち当たると、逃げてしまう。
少しでも面倒くさい、と思ったことに対しては、やったとしても嫌々です。昨年は、スタッフにできていない部分を指摘されて、半年以上口を利かないなんてこともありました。
そんな中「大槌イングリッシュツアー」の日にちが近づいてきました。Skype英会話を受講する生徒たちが、外国人のお客様をお招きして、英語で大槌の町をご案内するというイベントです。
今回のツアー案内役に挑戦するのは、高校生が3人と中学生が2人。その中学生2人のうちのひとりが彼女です。
授業での学びを活かせる場を作りたいと奮闘するスタッフを横目に、部活や生徒会などで忙しい彼女はあまり乗り気ではありません。
Skype英会話の授業も、ツアーの準備が始まってからは、浮かない顔。
「原稿を覚えることができない。できないくらいなら、恥をかくくらいなら、やりたくない」
…失敗を恐れる彼女の本音です。
やる気を見せない彼女にスタッフが言葉をかけ続け、練習を重ねる日々。しかし、いつまでたっても彼女の顔は晴れません。
本番の前日には「明日のリハーサルは出られないです」という言葉も出るほど。笑ってごまかす彼女の顔は、いつもの「うまく逃げるとき」の顔です。
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そして迎えたツアー当日。
今回お招きしたのは、町のALT(外国語指導助手)の方々、そして応援・ご協力をいただいている「株式会社ウィルグループ」で働く外国人の皆様。
復興が徐々に進む大槌の町を案内します。
生徒たちの緊張した面持ちも、参加者との交流の中で少しずつ緩んで行きます。
ツアーが進むにつれ、積極的にコミュニケーションを取ろうと頑張る生徒たち。
ある高校生の女の子は「伝える」ということに奮闘。ジェスチャーを使ったり、よりよい表現を調べてみたり、自分の伝えたことが上手く伝わったかどうかを相手に確かめてみるなど、工夫をしました。
授業ではない、生のコミュニケーションがある場だからこそ、見られた生徒たちの姿。
結果、普段の授業で学んだ英語を活かし、コミュニケーションを通して自然と笑顔がこぼれるように。
アンケートでも「交流が楽しかった」「いろんな人と会話できてよかった」という声がたくさん挙がりました。
しかし…中学生の彼女の表情は暗いまま。
どうにか彼女に楽しんでもらおうと、英語の堪能なボランティアの学生がそばにつき、参加者の方が気を利かせて声をかけてくださるも、彼女の顔にとうとう笑顔は戻りませんでした。
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そんなツアーの日から3日後のこと。コラボ・スクールで、中学生に向けに秋のガイダンスが行われました。
今回のテーマは、「辛いとき、逃げそうなときに自分を支えてくれる“マイワード”を見つける」こと。
夏のガイダンスで設定した目標を振り返りながら、日々の誘惑や弱さに負けそうになったときに支えとなる言葉を探す旅です。
生徒たちは早速、言葉が散りばめられた特設の部屋へ。
スタッフたちが選んだ素敵な言葉の中から、自分にぴったりの一枚を探します。
一つ一つの言葉を見ながら、時間をかけてじっくりと言葉を選ぶ生徒たち。
そんな中、あの彼女が、キラキラした目で声をかけてきたのです。
「先生!この言葉持ち帰っていい?」
「この言葉、すごくいい!」
普段には見たことのない満面の笑み。
彼女が選んだ言葉は…「負けないように、枯れないように、笑って咲く花になろう」。
この言葉を選んだとき、彼女はどんなことを考えたのでしょうか?意気揚々と部屋に戻ってきた彼女に、班のスタッフが聞いてみました。
「自分自身に勝ちたい」
「負けるのが悔しかったら、勝つまでやり抜いて、最後に笑いたい」
彼女から、次々に言葉が溢れ出します。
「自分に負けたりしたけれど、やっぱりベストを尽くさなきゃいけない。ベストを尽くすことができた時に、達成感は生まれるから…」
ベストを尽くせず、うまく笑えなかったあの日。
そんな想いを、胸いっぱいにしまっていたのでしょう。
「この言葉を見たら、“コミュニケーションを大切にすること、笑顔を枯らさないこと”を思い出します」
そんな約束をして、彼女は帰って行きました。
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日常を通して子どもたちと接することができること。
それは、コラボ・スクールの強みの一つだと思います。
毎日、短時間だけれども子どもたちと言葉を交わす。子どもたちの顔を見る。
そこから、子どもたちの変化を発見することが多々あります。
子どもたちの「できない」にとことんつきあう。
見逃してしまいそうな子どもたちの変化にも目をこらす。
それは、この場所だからできていることなのかもしれません。
さあ、今日もコラボ・スクールが始まります。