大槌臨学舎の新たなチャレンジ~オンライン授業奮闘記~
NPOカタリバが運営するコラボスクール・大槌臨学舎がある大槌町は、
4月より震災後10年目の節目を迎えました。
新型コロナウイルス感染拡大防止のためオンラインでの授業に切り替え、継続して学びの機会を届けます。
■新年度のごあいさつ
目まぐるしく変化していく状況の中、新年度を迎えました。
私たちは、2020年度も引きつづき、大槌町の子どもたちの学びを支える活動を継続します。
臨学舎の学びを通して、「主体的にやりたいことを見つけ、楽しむことができる子どもたちを育てる。」ことを目標に今後も精進してまいります。
今年度もどうぞよろしくお願いいたします。
■オンライン授業への挑戦が始まる!
岩手県大槌町では、新型コロナウイルス感染症対策のため3月3日から臨時休校となり、4月6日に学校が再開しました。いつ休校措置が取られてもおかしくない状態の中、緊張感のある日々を過ごしています。
臨学舎では3月2日から「子どもたちの学びを止めないために」オンライン授業を開講しました。
町内の一人でも多くの子どもたちの学びの機会を守るため、希望者家庭にiPadや通信機器を貸し出しオンライン授業環境を整備しました。
オンライン授業は、スタッフも子どもたちも初めての取り組み。
子どもたちにとって満足のいく学習ができるのか正直不安でした。
普段からタブレットを活用した学習をしていました
実際の授業の流れをご紹介します。
子どもたちは自宅から、ビデオ通話アプリ「ZOOM」を使用して授業に参加します。普段授業で使っているiPadが手元にあるので、新たに教科書や問題集を用意せずとも学習を行うことができています。以前から行っていたタブレット学習の強みが発揮されます。
時間になると続々と子どもたちが集まり、そのままホームルームの時間が始まります。
ホームルームの時間は原則、画面と声をオンにしてみんなで話します。
生徒の中には、恥ずかしくて顔を出せない子もいますが…(笑)
オンライン授業に取り組む先生の姿
ホームルームを終えたら、目標設定の時間です。
臨学舎では自分で「①何を(教材選択)」「②どのくらい(学習範囲の設定)」「③どのように(学習方法・学習姿勢)」の3つを決め、宣言をしてから授業に臨むことを大切にしています。スタッフがサポートする場合も、最後は自分で選択し、決断します。
「ワークの30ページまでやります!」「宿題を終わらせます!」
「解説動画を見て、ちゃんとノートも取ります。」
とそれぞれが宣言をして学習に取り組み始めました。
オンラインで目標設定のサポートができるのか不安でしたが、チャット機能でのコミュニケーションを活用し、前向きに目標設定に取り組む姿をみて日頃の声掛けがしみついているなと実感しました。
学習中はチャット機能で質問を回収し、先生が答えていきます。
チャット機能を使い目標を宣言しています
授業の最後は振り返りの時間です。授業の初めに立てた目標を中心に、勉強してみて気づいたこと、次回の取り組みたい工夫まで考えます。
「動画をみて分からなかったところが分かった!」
「いつもより集中できて進んだ!」
「思ったより単語が難しくて、8個しか覚えられなかった。次は、辞書を用意します!」
など、なれない環境の中でも一生懸命に自分の学習と向き合う子どもたちの姿を見ることができました。
■オンラインになっても臨学舎が大切にしてきたものは変わらない
オンライン授業の様子を見て、子どもたちの成長した姿にスタッフ一同感動していました。
対面の授業の時から大切にしている「目標設定」→「学習」→「振り返り」の学習の流れはオンライン学習でも変わらず実施できました。
この学習の流れには、「臨学舎の卒業後も自分に必要な学びを自分で決めることで意欲的に学習に取り組む。”自律した学習者”になってほしい。」という私たちの願いが込められています。
オンライン授業では、今まで以上に丁寧に目標設定や振り返りを行う子どもたち姿がありました。対面からオンラインに授業の形が変化しても、子どもたちと臨学舎が大切にしている考え方は変わっていませんでした。
■三者面談から見えた現実
「オンライン授業をもっと良くするためにはどんなことができるかな?」
と子どもたちに問いかけると、「もっとみんなで話す時間が欲しいです!」という声も。。。
子どもたちは、学校の休校や様々な行事の延期/中止を受け、人と接する時間の大切さを感じているようでした。
そうした子どもたちの変化をきっかけに、「もっと子どもたちやその家族に寄り添いたい!」という想いがスタッフの中に生まれ、休校が解除されたタイミングで対面の三者面談を行うことにしました。今後オンラインが長期化することを想定して、接続が上手くいかなかった家庭の通信設定を整えました。保護者の方にも来校いただき、家庭の状況やお子さんの変化などヒアリングしました。
※面談時は、マスク着用・適切な距離・入室時にアルコール消毒など厳戒態勢で実施しました。
そこで伺った休校中のご家族の様子は、スタッフの想像以上に辛く切迫感のあるものでした。
面談する子供たちの様子(休校前の写真です)
■保護者の方の声
「子どもの世話があるため仕事を減らすしかない。」
「子どもたち同士のけんかが増えて困っている。」
「今年受験生なんです。家で様子を見ていても勉強をあまりしていなくて…。勉強が遅れたりしないか心配です。」
など、コロナ疲れが生活を圧迫していることが伝わってきました。中には、保護者の方ご自身が体調を崩されてしまうご家庭もありました。一人親家庭や、お子さんが多い家庭、小さなお子さんがいる家庭では特にその状況は深刻で、保護者の方の不安を強く感じました。
■子どもたちの声
「友だちと遊べないのがつらい。」
「人と話をする時間が減った。家の中にずっといるから友だちと電話で話すことも見つからない。」
「外で体を動かしたい。身体がなまってくる。」
「お母さんが仕事だから代わりに家事をしなきゃいけなくて大変。」
「部活に行きたい。やっぱり最後の大会なくなっちゃうのかな?悲しい。」
など、突然の生活の変化への戸惑いや、今後の未来への不安が大きくなっている様子が伝わってきました。最初は楽しく遊んでいたものの、長く続いた自宅待機の生活に飽きや不安を感じるようになりました。
面談の最後、臨学舎から子どもたちにむけてメッセージを伝えました。
「みんなには”予測不可能なこと”に向き合う力がある。」
「臨学舎の活動を通して、考える力や、自分の気持ちを伝える力、自分や周りを大切にする力が身についているよ。」
「臨学舎のスタッフもみんなのサポートを続けていくから、一緒に楽しく乗り越えていこうね!」
このような対話を通して、お互いの理解を深めることができました。そこからこの状況を乗り越えるための気づきが生まれました。
面談する子供たちの様子(休校前の写真です)
■三者面談を終えて~オンライン授業の改善~
三者面談での子どもたちや保護者の方々の声やそこから得られた気づきを元に、スタッフ全員でオンライン授業の改善に挑みました。
今回の授業改善で大切にしたいことは以下の3つです。
①継続して参加したくなる、安心して時間を過ごせる場所であること
双方向のコミュニケーションが生まれるホームルームの時間や、休憩時間にみんなで遊べる楽しい仕掛けなど、子どもたちが楽しみながらリラックスできる場所を作ります。
②学習のリズムを整え、学習面での挑戦を生み出すこと
週二回のオンライン授業を通して学習リズムを整えます。それに加えて、週に一回のオンライン面談を設け、学習や生活に関してスタッフと一対一で相談できる時間を作りたいと思います。
また、英検対策クラスやSkype英会話等の授業を設け、生徒の学習の幅も広げていきます。
③子どもたちに新しいものに触れる機会を届けること
周りの人にも協力を依頼して特別プログラムの作成や、外部の面白そうなプログラムの紹介など、生徒に新たな世界と出会う機会を作ります。
これからも生徒の状況を見ながら、改善を加えてよりよい授業と機会を子どもたちに届けていきます。
新型コロナウイルス対策で世界中が対応に追われていますが、こんな時だからこそ「臨学舎」の名前に込められた想いに勇気をもらいます。「臨」は「向き合う」という意味を持ちます。こうした予測不可能な状況にまっすぐに向き合いながら今できる最大限の力で子どもたちと一緒に学びの場を作っていきたいと思います。