19歳の女川向学館卒業生が語る~今ここにある当たり前は当たり前なんかじゃない~
宮城県女川町にてカタリバが運営する、被災地の放課後学校コラボ・スクール女川向学館。
今回は、中学1年生から高校を卒業するまで向学館に通い、現在は向学館で働く傍ら、将来に向けて準備をしている一人のスタッフにスポットをあててお送りします。
「向学館は中学生の頃からずっと自分にとって大切な居場所だった」と言う彼女は、女川生まれ女川育ちの19歳。震災当時は、小学6年生でした。
■2011年3月11日、あの日のことを教えてください
2011年あの日は小学校の卒業式の練習で体育館にいました。大きな地震が来て、びっくりしましたけど、私たちの学校からは津波が見えなかったので、その時は、それほど大きな事だと思っていなかったというのが正直なところです。その日は学校にみんなで泊まることになり、学校に友達と泊まれることにワクワクした気持ちでいました。
次の日にお母さんが迎えに来てくれて、すべて流された女川の町を見た時に、初めて被害の大きさを知りました。同時に、何もなくなった自分の家の跡地を見ても、どうしても自分事として捉えることが出来ず、どこかテレビの世界の出来事を見ているような感覚だったことを覚えています。
(小学校の体育館は今もそのままです)
■それから6年半仮設住宅での生活だったよね
震災後4か月ほど避難所生活をして、仮設住宅に引っ越しました。今年ようやく仮設を出ることが出来ました。仮設住宅からの引っ越しは大変でしたけど、嬉しかったです。
(学校の時計は地震があった時刻のままです)
■向学館には中学1年生から通っているんだよね
はい、中学1年生から高校を卒業するまで通っていました。同級生で向学館に通っている友達が多く、もちろん勉強が出来るということも有り難かったですが、それ以上に自分の話を聞いてくれる大人が常にいてくれたことが今思えばすごく有り難かったです。中学生の頃は自分の話を聞いてほしい、自分に注目してほしいという気持ちをどう表現すればいいのか分からず、向学館のスタッフの方に暴言を吐いてしまうこともありました。私がひどい言い方をしても「どうした?」「今日は学校どうだった?」と話を聞いてくれてずっと寄り添ってくれた向学館のスタッフのみなさんには感謝しています。今の中学生や高校生を見ていても、当時の自分を見ているようで気持ちが分かることが多いです。素直になれない年頃だなと。最近まで高校生だった私がいうのもあれですが、そんなふうに感じます。中高生の気持ちが分かるからこそ、なんでも受け止めよう、そんな気持ちで日々子どもたちと接しています。
(中学生の時の1枚)
■向学館ってどんな存在?
今改めて思うのは、自分にとっての居場所だったなと感じています。もちろん今もですが、こんなに親身になって自分のことを聞いてくれる人たちがたくさんいる場所はなかったなと思っています。中高時代もそうでしたけど、今も変わらず自分の将来について相談させてもらっていて、向学館という存在自体が、第二の親という感じです。だから私も今は向学館で働く一人として、いつか誰かの第二の親のような存在になれたらいいなと思っています。
■高校生になってからは勉強だけじゃなくて、県外の高校生との交流や女川での活動もしたんだよね
高校生になってからも向学館に通っていたのですが、向学館のスタッフの方に誘われて、他の地域の高校生と交流するイベント等にも参加していました。全国の同世代の人達と交流していく中で、いろんな活動をしている同世代の人達にすごく刺激を受けて、自分も女川のために何かしたいと思って向学館のスタッフの方に相談しながら、小さな自分のプロジェクトをやってみたりもしました。女川の大人の方に話を聞きに行ったり、普通の高校生活では出来ない経験が出来たなと感じています。
(高校生の時1枚)
■同じ震災を経験した下の世代の子どもたちに今思うことは?
もっとこの町や、町の大人と関わっていってほしいなと思っています。
あの震災があって、女川は町が流されて、もちろん私の家も商店街も。
あれから7年が経ち、今は想像していた以上の新しい町が出来ました。
新しい町は勝手に出来ていった訳ではなくて、たくさんの人たちの頑張りがあって出来たんだっていうことをもっと知ってほしいんです。
私も高校生の時に町の大人と話す機会があって、この町がどうやって復興への道のりを歩んでいるのか、どんな想いを持って大人たちが頑張って来たのかを知ることが出来ました。
その時単純にこの町の大人を「かっこいいな」って思ったんです。だから今の中学生たちにも知ってほしい。今ここにある当たり前は決して当たり前なんかじゃない。たくさんの大人達の想いと努力で出来たんだってことを。
(現在の女川町の様子)(ここは公園が出来る予定です)
(高校生の時の1枚 今も変わらない笑顔です)
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「あの震災がなければ、出会えなかった人もたくさんいるし、向学館もなかったはず。
そう考えると震災って悪いことばかりじゃなかった」と言う彼女。
今日も彼女の周りにはたくさんの子どもたちが集まってきています。たくさんのキッカケをこれからも子どもたちに届けてくれることでしょう!