マイプロジェクト発祥の地・大槌で起きている子どもたちの変化
岩手県大槌町にて認定NPO法人カタリバが運営する、子どもたちの放課後の学びの場と居場所「コラボ・スクール 大槌臨学舎」。
ある日、奥の部屋でにぎやかに活動する中学生の姿がありました。
彼らは「秘密基地プロジェクト」のメンバー。
この秘密基地プロジェクトは、臨学舎の1つの仮設教室に子どもたちが学年に関係なく集まり、やりたいことをできる居場所をつくろう、という活動です。
■プロジェクトができた背景
この活動が始まるきっかけとなったのは、高校生が取り組んでいる「マイプロジェクト」です。
「マイプロジェクト」とは、子どもたちが身の回りの課題や関心をテーマ
マイプロジェクトについて詳しくはこちらをご覧ください。
実は、今では全国各地の高校生が取り組んでいる「マイプロジェクト」が始まった場所が、この大槌町でした。
東日本大震災から2年が経った2013年、臨学舎では数人の高校生が「なにか自分たちで地域のためにできることはないか」と考え始めました。
「4年に1度、 朽ちる木碑 の建て替えを行い、教訓を引き継ぎたい 」 という彼の想いが地区の人々に届き、実現したこの取り組み。
彼をはじめ、高校生たちはこのような取り組みを通して、自身が復興の担い手になっただけでなく、考えをまとめたり、地域の人に提案したりと、自身で取り組む力をつけていきました。
そして高校生が実施したこうした取り組みは、大槌臨学舎に通う他の子どもたちにも「何か自分でもやってみよう」という後押しになり、その後全国各地の高校生がそれぞれの地域で、想いを抱いて取り組む活動として広がりました。
そして今年、高校生が取り組んでいる姿を見てきた中学生が、この「マイプロジェクト」に取り組み始めました。
■「やってみたい」をゼロからやってみよう
冒頭に紹介した「秘密基地プロジェクト」は、臨学舎の校舎の中で、学年に関係なく好きなことにじっくり取り組める部屋をつくろうと募集したところ、有志9人が集まりました。
このプロジェクトのねらいは、「やってみたい」と、自分の思い描いたことをゼロから形にしてみる経験を通して、子どもたちの創造力や個性を発揮できる機会にすること。
また仲間と活動する中で、失敗や困難な場面になったときに協力しあう経験をし、子どもたちの将来に役立ててほしい、というスタッフの想いがありました。
そんな中で集まったメンバーは、これから始まることを楽しみにしながらも、そわそわと具体的にどんなことをするのか不安な様子です。
1番初めに取り組んだのは、「どんな部屋にするか?」 と想像すること。
子どもたちは、いろいろな種類のインテリアや空間の写真を眺め、自分がピンときたアイデアを出していきました。
「壁は白がいいなあ」
「本棚がほしい」
「木工をやりたい、木の雰囲気が好き」
その後、子どもたちはスタッフのサポートのもと、思い思いに出していったアイデアを、1つの空間として作るために、優先順位を考えて作業の行程を計画していきました。
■役割分担でチームワークを発揮
そしていよいよ部屋を改造するための道具が到着。
子どもたちは部活などで忙しくなかなか揃うのが難しい中、夏休みにかけて作業日を分けながら進めていきました。
ペンキを塗るために窓や床をビニールでカバーする係。
作業道具を全て袋や箱から出して使える状態に整える係。
壁の塗り方や、シートの貼り方をインターネットで検索してまとめる係。
壁を塗らないところもせっかくだから綺麗にしたいと、進んで掃除を始める係。
誰かが何かを言わなくても、子どもたちは率先して自分がすべきこと・できることを探して行動していました。
「ペンキを塗るのが得意なんだ。」と話すSくんは、率先してペンキ塗りの作業にとりかかりました。
彼は、「家族がこういう仕事をやっているからいつも手伝っている。だからこのプロジェクトに参加したんだ。」と身近な大人への憧れを話してくれました。
他にも、いつもはあまり自分のこと話さない子どもたちが、「細かい作業が好き」と自分の好きなことを話したり、役割分担する中で「準備してくれてありがとう」といった相手の得意なことを褒めあう場面が見られました。
■「振り返り」で互いに学び合おう
思い描いた空間が自分たちの手によって作られ、愛着が湧いた様子の子どもたち。
実は、楽しい活動を進めながら、子どもたちは定期的に振り返りを実施してきました。
1つ1つの作業を通して、自分が担った役割、チームとして良かったこと、次に頑張りたいことなどを書いていきました。
「学年問わず、みんなで協力できていたと思う。」
「シート張りを綺麗にできて嬉しかった!」
「みんなが楽しく作業できるように最初の準備を素早くする。」
一連の作業を通して、リーダーの役割を自然の担っていた中学3年生のKちゃんは、こう話しました。
「臨学舎で、こういう自分たちで作っていくようなことができるのが楽しい。もっとこういう活動が増えたらいいな」
その後、彼女はメンバーたちに「完成したらパーティーをしよう」と次のアイデアを提案していました。
■広がる学びの輪
秘密基地プロジェクト以外にも、今年は、大槌臨学舎では多くの子どもたちが、様々なチャレンジをしました。
小学生の頃からデザインやものづくりに興味のある子が続けているのが、「オリジナルの服づくり」。
自分の好きな漫画を発表してみんなで読み合う「シェアコミックス」。
いつかやってみたい、と思っていたことに挑戦した「パン作り」。
中学生、高校生になるにつれ、どんどん忙しくなり、現実的に考えられるようになると、「どうせ私なんか…。」と小学生の頃のように夢を口にすることは少なくなってくる10代の時期。
そんな子どもたちに「じゃあ一緒にやってみようよ!」と声をかけて一緒に考えるスタッフの存在が、子どもたちの小さな「やってみたい」を実現するサポートになります。
しかし、スタッフは子どもたちと一緒に考える時、つい自分の思い描く理想や近道となるアドバイスを伝えてしまうと、子どもたちのやる気を削ぎ、自信を失いかねません。
気をつけているのは、こちらの思いつきを言うのではなく子どもたちの考えを聞き出すこと、教えるのではなくヒントを出して導いてあげること。大人や高校生よりも時間がかかったり、言葉が拙かったりしても、子どもたち自身が自分のペースで試行錯誤していくことを大切にしています。
自分たちで企画して、実行して、「できた!」と実感する。その一連の経験をすることによって、子どもたちは主体性や考える力を養います。
そして1つの経験から自信や、「次はこれをやってみたい」という意欲に繋がり、次の後輩たちの憧れとなっていきます。
大槌臨学舎では、そんな学びの連鎖が起こる場所になるよう、これからも中学生のチャレンジを応援していきます!