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対話を通して前に進む力〜臨学舎の「おちゃっこ」面談〜

2019.10.25

岩手県大槌町にて認定NPO法人カタリバが運営する、子どもたちの放課後の学びの場と居場所「コラボ・スクール 大槌臨学舎」。

はじめに、台風19号により被災された方々には心からお見舞い申し上げると共に、復興に尽力されている皆様には、安全に留意されご活躍されることをお祈りいたします。

大槌臨学舎は、大きな被害なく、継続して開校することができています。

 

■ナナメの関係と出会える場所

 

「ナナメの関係」とは、親や教員(タテ)、同級生の友達(ヨコ)とは違った、少し年上の先輩という、少し年上の大学生や若者のことをを指します。

少し年上の先輩だからこそ、気軽に本音で話せる関係性が築けると感じています。

特に地方では、近くに大学がなかったり、高校卒業後に主要都市へ引っ越したりと、10代にとって大学生や20代の若者との出会いが希薄になっているのが現状です。

 

臨学舎の全国から集まったスタッフは、子どもたちとの関わりの中で、自分の中高生時代の楽しかった思い出や失敗談をはじめ、地元のこと、旅行で行った場所のこと、現在考えていることなどを話します。そうした中で、「ナナメの関係」は育まれていきます。

 

授業前後にスタッフと話すことを楽しみにしている子どもたち。

 

テストの話になれば、「私が中学生の頃は社会が好きで、特に歴史はこんな風に覚えていたよ」

部活の話になれば、「部員ともめてやめちゃったんだよね。今でもとても後悔してるんだ」
お祭りの時期になれば、「私の地元ではこんなお祭りがあって、大学の仲間と汗びっしょりになりながら楽しくやっていたよ」など。

 

何気ない会話は、子どもたちの新しい発見に繋がっています。

 

こうした日常の関わりとは別に、臨学舎では定期的に「おちゃっこ」をしています。

「おちゃっこ」とは、東北の方言で「お茶飲み」のこと。
お茶を飲みながら、世間話や最近のことをおしゃべりして楽しむ時間です。

 

臨学舎の「おちゃっこ」は、子どもたちとスタッフが1対1で気兼ねなく話したり聞いたりする時間として開催しています。

 

 

■1対1だからこその対話を届ける“おちゃっこ”

 

「おちゃっこ」を開催する理由は、生徒1人ひとりの本音を引き出し、本音の対話を通して前向きに取り組む意欲へつなげるためです。

 

毎日忙しい生活を送る中高生は、「誰かに話したい、でも誰にも話せない。」という悩みを抱えていたり、「このことについて話してみたいけど、変じゃないかな、大丈夫かな?」と不安になったり、『話す』ことに戸惑いや不安な気持ちを抱きやすい時期でもあります。

 

2018年にカタリバが全国の思春期世代を対象に実施した調査では、72%の人が「親に大事な悩み事は相談しない」ということがわかりました。

世の中のニュースや、学校での出来事について話しても、心に抱える重要なことは話さない傾向にあります。

 

臨学舎は、学校の先生でもなく親でもないナナメの関係である先輩たちがいて、放課後に自由に過ごせる場所。
だからこそ、子どもたちが抱える不安を少しでも和らげ、前に進む力を引き出す環境を用意したいと思い、「おちゃっこ」を開催しています。  

学習のふりかえりを蓄積するファイルなどを一緒に見返します。

 

 

 

■話す内容は、人それぞれ。

例えばYくん。Yくんは、夏休み明けに臨学舎に入ったばかりです。

 

「臨学舎に通い始めてみてどう?」

「まあ、楽しくやっているかな。自由に勉強しているし、特に単語プリントが使いやすい。」

「そっか、よかった。最近楽しいこととか、夢中になっていることはあるの?」

「特にないけど、おしゃべりすることが楽しい。仲が良い友人と臨学舎に通えていることが楽しい。」

・・・

この後も、家で過ごしている様子や、会話で挙げた友人の良いところを褒めるなど、彼が現在考えていること、気になっていることを聞くことができました。

普段の様子は、他の子を気にして遠慮がちなYくん。そんな彼と初めての「おちゃっこ」では、自分のことを楽しそうに話してくれました。

 

普段の学習でも1人ひとりとの対話を大事にしています。

 

また、中学2年生のTさん。いつも笑顔で挨拶をする彼女は、部活や委員会でリーダーの役割になることが多く、普段から忙しそうにしている様子です。

「最初に委員長に立候補したきっかけは?」

「高校に入りやすくなるかなと思って。」

「実際にやってみてどう?」

正直大変だし、いっぱいいっぱい。集団をまとめるのは大変だし、人間関係が面倒臭いところもあるんだ。例えばね…」

彼女は、リーダーとして頑張っていること、友人関係の悩みを抱えていることを話し始めました。

友人それぞれの立場に立って話す彼女に対し、「人の良いところも、悪いところも、どちらも見れているんだね。その観察力はすごいよ!」と褒め、彼女の話を紙に書いて整理しながら一緒に解決方法を考えました。

後日、彼女に様子を聞いたところ、「あれから思い切って普段話さない子に話してみたら、理解してくれた!」と前に進めていることを教えてくれました。

 

仲良しなメンバーが集まった日。

 

 

1人ひとりのつぶやきから子どもたちが前向きに、臨学舎で過ごす時間もそうでない時間も過ごせるように約束を結んで「おちゃっこ」の時間は終わります。

 

■1人ひとりの対話に想いを乗せて

 

この「おちゃっこ」の開催に向けて、スタッフ全員で生徒1人ひとりの状況を共有するところから準備を進めてきました。

どんな質問を投げかけたら話しやすいか、どんな話題を話したいと思うか、事前にアイデアを出し合い、想定して臨んでいます。

 

スタッフで問いかけのアイデア出しを行いました。

 

 

震災以降、“行けば話を聞いてくれる人がいる” という居場所として多様なスタッフが入れ替わりながら運営してきた臨学舎。
それは今でも変わらない臨学舎の価値の1つです。

 

現在関わっている中学生にとって、「誰かに話したい、でも誰にも話せない。」「このことについて話してみたい。」ということが少しでもあれば、それを話せる・聞ける場所としてこれからも子どもたちを迎え入れ、そして自分で前に進めるように後押ししていきたいと思います。